自動車の走行税とは?特徴や導入された場合のメリット・デメリットを紹介
車に関する税金にはさまざまなものがあります。毎年課税される自動車税種別割、購入時に発生する自動車税環境性能割、車検ごとに支払う自動車重量税、そしてガソリンや軽油に含まれる税金などです。
最近はハイブリッドカーや軽自動車など燃費の良い車の増加に加え、カーシェアリングの普及による保有台数の減少もあり、税収が伸び悩む傾向といえるでしょう。
そのような中で、政府では車の走行距離に対して課税する「走行距離課税(走行税)」の導入を検討しているという情報があります。まったく新しいこの走行税とはどのようなものなのでしょうか。本稿では、走行税の内容について、そのメリットやデメリット、すでに導入している国の例などを紹介します。
※目次※
・走行税は、ハイブリッド車やカーシェアリングの普及などによる税収の落ち込みを防ぐために導入が検討されている。
・走行税はすでに一部の国などで導入されているが、試験的な導入や成功例、失敗例などさまざまな結果が報告されている。
・走行税の導入は未定だが、日本ではすでに自動車に関してさまざまな税金が課せられている。
走行税とはどのような税金?
検討との報道がされたばかりで、まだ耳慣れない「走行税」ですが、走ることによって支払う税金だろうということはなんとなく分かります。ただ、実際にはどのように課税されるのか気になるのではないでしょうか。ここでは、走行税について海外の事例とともに紹介します。
走行税は走行距離に応じて課せられる税金のこと
自動車にかかわる税金の中には、道路を維持するための費用に充てられているものがあります。しかし、燃費の良い車や電気自動車の普及により、燃料に関する税収が減少し、このままでは道路の整備が満足にできなくなる可能性が出てくるでしょう。
そのため、利用者負担の原則に基づいた税金の導入が求められています。検討や導入が始まっているのが、自動車の走行距離に応じて課税される走行税です。現時点では海外の一部で導入されていますが、日本においてはまだ導入されておらず、検討段階といえます。
海外では導入事例がある
海外では、アメリカを中心として走行税の導入や検討が行われています。オレゴン州ではすでに導入されており、カリフォルニア州やハワイ州などでは実証試験が始まっているのが現状です。また、アリゾナ州やテキサス州などでは調査研究が進められている地域もあります。
アメリカ以外では、ドイツやオーストリアで走行距離を対象とした制度が、ベルギーやイギリスで利用期間を対象とした制度が、それぞれ重量貨物車向けに実施されています。
走行税が日本で検討されるようになった背景
これまでも自動車に関する税金はいろいろありましたが、さらに走行税の導入が検討されるようになったのには理由があります。それは自動車を取り巻く環境の変化により、今後の税収が減っていくという懸念からです。ここでは、その理由について解説します。
自動車を持たない人が増えた
理由のひとつとされるのは、カーシェアリングやサブスクリプションなど「車を所有しない」ことを前提とした新しいサービスの登場です。現在の日本の自動車の税金は、所有することに伴って発生するものが多くなっています。
特にカーシェアリングは、購入しても使う機会があまりないなど非効率だった状況を改善するのはとても良いことでしょう。しかし、毎日車を使う必要性の少ない都市部を中心に普及していることで、車の所有人口が少なくなり、税収も減るのではないかと考えられています。
エコカー普及による税収の減少
現在でも間接的ではありますが、自動車の使用に応じて支払うような仕組みの税金があります。それはガソリン税や軽油引取税のような燃料にかかわる税金です。これらの税金は、道路の維持管理には必要な財源ですが、本則税率より高い税率や、ガソリン税の消費税との二重課税が問題とされています。
これらの税金についても、ハイブリッド車の普及による燃費の向上や、燃料を使わない電気自動車の普及などにより、燃料に課せられる税金が少なくなる傾向です。その結果、道路財源を確保するためには、この税収の減少分を補填する必要が出てきます。
走行税が導入された場合のメリット
走行距離課税の導入は、燃費が格段に向上したハイブリッド車や電気自動車の普及によって減った税収益を増やすことを目的としています。しかし、まだ検討段階であり、実際に可決・施行されるかは未定です。
ここでは、実際に走行距離課税が導入された場合、自動車保有者にどのようなメリットがあるのかについて見ていきましょう。
走行距離が短ければ税金が安くなる可能性がある
走行距離課税は、自動車で走行した距離に応じて税額を決める課税方式です。走行距離が短ければ短いほど税金は安くなるため、利用頻度や移動距離が少ない方にとって有利となるでしょう。
通勤や日常生活で自動車を必要としない都市部に住む方なら、今まで支払ってきた自動車税よりも大幅に減税となる場合もあります。
排気量が大きい車は減税になる可能性がある
現在の自動車税制度では、排気量が大きい車には重い税負担がのしかかっています。もしも走行距離課税が導入されれば、排気量別の課税が撤廃となり、車の乗り方によって税の負担を軽減できるかもしれません。
自家用車だけでなく、運送や流通業界で多く使用される大型車の場合も同様です。現状排気量の大きい輸送車は自動車税の負担額も大きいですが、新税制度の内容によっては減税となる可能性があります。
エコカーからも税金を徴収できる
現在、電気自動車(EV)ハイブリッド車(HV)プラグインハイブリッド車(PHEV)などのエコカーには減税措置がとられています。減税に関しては、全ての車種から平等に税金を徴収すべきと感じる人もいるのが現状です。
しかし走行税が適用されれば、平等に税金を徴収ができるようになります。もちろん、この提案には反対意見もあるため判断は複雑です。全てを考慮した上で決定することが重要になってきます。
走行税が導入された場合のデメリット
自動車に乗る機会が少ない都市部の方や排気量の大きい車に乗っている方にとっては有利に働く可能性がある走行距離課税ですが、デメリットにはどのようなものがあるでしょうか。ここでは、走行距離課税導入によるデメリットについて詳しく見ていきます。
地方の負担が増える
地方に住む方は、通勤や買い物で自動車を利用する頻度が高い傾向にあります。必然的に走行距離が長くなるため、走行距離課税が導入されれば今までよりも高い税金を納めなくてはならない人が増えるかもしれません。
走行距離課税は、日常生活での自動車への依存度によって課税額が大きく変わります。そのため、移動手段として日常的に車を利用する地方エリアに住む方には、今まで以上の税負担がのしかかるでしょう。
交通・運送業界にダメージ
走行距離課税導入は、走行距離が長い交通業界や運送業界にとっては大きな痛手となります。走行距離の多い車両を維持すればするほど、税負担が大きくなるため、その分運賃などのサービス利用料が値上げされる可能性もあるでしょう。
また、カーシェアリングサービスは基本的に走行距離や利用時間により利用料金が決まっていますが、これはあくまでも現在の税制の上で利益が出るような設定です。走行税が導入されれば、それに応じた料金の上乗せも考えられます。
プライバシー侵害の恐れがある
走行税の導入には、走行距離や利用時間などを把握する必要があります。そのためにはその車がどのくらい走行したかを記録する必要があります。かつて個人を特定しない方法であっても移動にかかわる情報を販売することを発表した企業に批判が集まったように、現代ではプライバシーにかかわる情報の取り扱いはとてもデリケートな問題です。
特に走行税で収集する情報は結果的に車を通じて所有者(使用者)である個人に紐付けられるため、運用次第では情報漏えいのリスクを抱えることになります。
公平に課税するのが難しい
走行税の導入が難しいといわれている理由のひとつは、技術面やコスト面で公平性の確保ができないことです。GPSやメーターを使って走行距離を把握する方法もありますが、それぞれに課題があります。
GPSを利用する方法は、GPS装置の設置に時間とコストがかかるため、全ての車両に導入することは簡単ではありません。また、GPSによる追跡は不正確な場合もあり、正しい金額を請求することも難しくなる可能性もあります。
メーターを使って走行距離を計測する場合は、メーターの改ざんをしてしまうかもしれません。このように、走行税の導入にはいくつかの問題をクリアする必要があります。
走行税を導入している国家はある?
すでに走行税を導入している国・地域もあります。現在、走行税を導入しているのは、ニュージーランドとアメリカ(オレゴン州)です。
また、ドイツやフランスでも大型車など一部のトラックを対象に導入されています。日本もこれらの国の動向を見ながら、走行税の導入を検討しています。
ニュージーランド
ニュージーランドではRUCと呼ばれる新しい道路使用料制度(走行税)が実施されています。この制度では、ディーゼル車や大型自動車が対象となり、通常料金は0.076 NZD/km(3.5t以下の車)ですが、割引期間では0.049 NZD/kmとなります。
RUCのライセンスを購入するには、使用する予想走行距離分の料金を前払いする必要があります。実際の走行距離が予定より多くなった場合は再度申請し、少ない場合は返金を受ける仕組みです。
RUCは、走行距離を計測するためのレコーダーを取り付けることで不正防止に対応しています。
アメリカ(オレゴン州)
アメリカ(オレゴン州)では、走行距離に応じて自動車に課税するプログラムを実施しています。このプログラムはOReGOと呼ばれ、1マイルあたり0.019USD(1.9セント)のマイレージ税と、1ガロンあたり0.38USD(38セント)の燃料税を支払う仕組みです。
走行距離は車両にマイレージレポートデバイス(走行距離報告装置)を取り付け、集計することで徴収されます。
ドイツ・フランス(EU諸国)
ドイツやフランスでも走行税が導入されたり検討されたりしました。ドイツでは、7.5トン以上の大型トラックに対して実施されています。これは対象となる車両にGPS付きの専用車載器を搭載することで走行距離を把握し、その情報を基に課税される仕組みです。この制度が順調に進めば、いずれ乗用車にも拡大される可能性があります。
一方フランスでは、3.5トン以上のトラックに対して「エコタックス」と呼ばれる走行距離に対する課税制度が検討されました。こちらも対象の車両にGPS付きの装置を搭載して計算された距離に応じて課税されるものでしたが、こちらは業界からの反発を基に議論を重ねた結果、この制度は廃案となっています。
すでに日本で導入されている車の税金とは?
走行税はまだ検討の段階で導入されるかどうかは分かりませんが、日本における自動車に関する税金はいくつかあります。これを機会に自動車の税金を知っておくことは、今後もし走行税が導入されることになった場合にも知識として大切です。ここではすでに日本で導入されている自動車の税金を紹介します。
自動車税種別割
自動車税種別割とは2019年10月1日から導入された税金で、それまでは単に自動車税と呼ばれていたものです。エンジン排気量によって税額が決められ、1L以下は2万5,000円、そこからはおおむね500ccごとに区分が分けられています。
エンジンのない電気自動車は1L以下と同じ税額です。また、以前の自動車税と比べて、税額が安くなっていて、特に2L以下の車に対しては引き下げ幅が大きくなっています。
自動車税環境性能割
自動車税環境性能割は、自動車税種別割と同じく2019年10月1日から導入された税金で、それまでの自動車取得税に替わるものです。自動車取得税は購入時にかかる税金で、エコカー減税を除けば自動車の価格に基づき所定の方法で計算された金額が課税されます。
自動車税環境性能割も購入時の自動車の価格を基に計算することは同じですが、排出ガス基準が4つ星であり、かつ所定の燃費基準を満たしているかどうかで税率が異なります。平成32年燃費基準を+20%達成している車および電気自動車は非課税です。
自動車重量税
自動車重量税は、その名の通り、自動車の重量を基に計算、課税される税金です。車の購入時、そして車検のときに支払うもので、次の車検までの期間の税金を納めることになります。
税額は車両重量500kgごとに加算される仕組みです。重量により決められた税額を基に、エコカーの場合はエコカー減税が適用されるとともに、初度登録から13年および18年経過した車はそれぞれ税額が加算されます。
ガソリン税
ガソリン税はガソリンにかかる税金で、ガソリンの価格に含まれています。税額はガソリン本体の価格にかかわらず決められていて、1Lあたり53.8円です。ただし、これは暫定税率で、本則税額は28.7円となっています。
また、ガソリンにはこの他に石油石炭税が1Lあたり2.04円、温暖化対策税が1Lあたり0.76円が課税の金額です。このため、ガソリン価格が170円の場合、約3分の1が税金となる計算です。
消費税
消費税は1989年にスタートした税金で、商品やサービスに対して課税されます。価格に対して所定の税率をかけて計算された金額を商品やサービスの代金とともに支払う税金です。当初の税率は3%でしたが、次第に引き上げられ、2019年10月以降10%(食料品など一部は8%)となりました。
ここで問題にあるのがガソリンに対する消費税のいわゆる「二重課税」です。前述の通り、ガソリンの価格はガソリン税などの税金が含まれていますが、消費税はそれらの税金を含めた総額に対して課税されています。
その根拠として、ガソリン税の納税義務者が石油会社となることから商品価格を構成するコストになるからとしていますが、これには納得できないという意見もあり、議論が続いているのが現状です。
まとめ
まだ検討の段階とはいえ、日本でも走行税が導入される可能性が出てきました。走行税が導入されると、使用状況により税額が変動するため、想定した以上の税金を支払う可能性があります。逆に走行距離が少ない車は税額が安くなるかもしれませんが、減少傾向の自動車関連税の補填が目的のため、その金額も限定的でしょう。
導入されるかどうかも決まっていないとはいえ、走行税が導入されたときに備えて車を選ぶ必要が出てくる可能性があります。走行距離が長くなると税額の他にもガソリン代がかかるので、燃費の良い車を選ぶ事の重要性が増してくるかもしれません。
▼ライタープロフィール
岩本佳美
漠然と「車関係の仕事がしたい」という想いのもと、飲食業界から自動車メディア業界に飛び込むという破天荒な人生を歩んでいる。愛車がスバルのWRXということもあり、主にスバル系の記事をWebや紙媒体に寄稿。モータースポーツが大好きで、レース観戦はもちろん、サーキット走行や24時間耐久のカートレースにも出場するなど、自らも走ることでその楽しさや面白さなどを経験しながら情報発信している。
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