走行距離課税とは?メリット・デメリットと海外事例から見る日本の展望
ガソリン車から電気自動車への移行が進む中、自動車関連税収はどうなるのでしょうか。走行距離課税は、この問題への解決策として注目を集めています。
しかし、公平な税負担の実現や環境負荷の低減といったメリットがある一方で、プライバシー侵害の懸念や導入コストの問題も指摘されているのが現状です。走行距離課税の仕組みや背景、メリット・デメリット、そして海外の事例を詳しく解説していきます。
※目次※
・走行距離課税は、自動車の走行距離に応じて税金を課す新しい制度で、実際の道路利用量に基づいた公平な課税を目指している。
・走行距離課税は、電気自動車の普及によるガソリン税収の減少に対応し、道路インフラの維持管理費用を確保するために検討されている。
・走行距離課税は、公平な税負担と環境負荷の低減が期待される一方、プライバシー侵害の懸念や高額な導入コストなどの課題がある。
走行距離課税とは?導入が検討される背景
日本でも、走行距離に応じて税金を課す「走行距離課税」の導入が検討されています。ガソリン税収の減少や、若者の車離れといった課題が、導入検討の主な背景です。まずは、仕組みや導入検討の背景などの詳細を見ていきましょう。
走行距離課税の定義と基本的な仕組み
走行距離課税は、自動車の利用距離に応じて税金を課す制度であり、従来の自動車税とは異なり、実際の道路利用量に基づいて課税される仕組みです。この制度により、車の使用頻度に応じた公平な税負担が実現されます。
導入検討の背景として挙げられるのが、電気自動車やハイブリッド車の普及によるガソリン税収の減少です。2022年10月の政府税制調査会では検討の必要性が指摘されましたが、2025年2月現在、具体的な導入時期は未定となっています。
現行の自動車関連税制の課題と限界
現行の自動車関連税制は、内燃機関自動車を前提とした税体系であり、モビリティの多様化に十分対応できていません。自動車税種別割では、総排気量による税率区分が採用されていますが、エンジン性能の向上により排気量と車両価値の相関関係が薄れています。
営業用と自家用の税率差、軽自動車と普通自動車の税負担差、そして取得・保有・走行の各段階における複雑な税目構成など、多くの課題が指摘されているのが実情です。これらの解決には、自動車の進化に対応した課税基準の見直しと、税体系の簡素化が求められます。
走行距離課税導入検討の社会的背景
先述の通り、走行距離課税の導入検討には、電気自動車・ハイブリッド車の普及によるガソリン税収の減少が背景にあります。加えて、公共交通機関の発達やカーシェアリングの普及による若者の車離れも、自動車関連税収に影響を与えているようです。
道路インフラの老朽化による維持補修費用の増大も重要な課題となっており、安定的な財源確保が必要とされています。従来の税制では対応が困難なこれらの問題に対し、走行距離課税は公平で持続可能な新たな選択肢として注目を集めているわけです。
走行距離課税導入のメリットとは?
走行距離課税の導入により、自動車利用の実態に応じた公平な税負担が実現できます。この制度は、環境負荷の低減から道路インフラの維持管理まで、幅広い効果が期待されるでしょう。以下で、具体的なメリットと期待される効果について詳しく解説していきます。
【走行距離課税のメリット.1】公平な税負担の実現
走行距離課税は、全ての自動車ユーザーが、道路利用実態に応じて公平に負担する新しい制度です。現行制度では、ガソリン車は燃料税を通じて道路整備に貢献していますが、電気自動車にはその機会がありません。
走行距離課税は、車種・排気量に関係なく、実際の走行距離に基づいて課税される仕組みです。利用頻度の低い所有者の負担は軽減され、長距離走行車両には相応の負担が求められます。
従来の排気量別課税に代わり、より利用実態に即した公平な税負担の実現が期待されるでしょう。これにより、車両の性能・用途に関係なく高額な税金が課される問題も解消されます。
【走行距離課税のメリット.2】環境負荷の低減効果
走行距離課税は、走行量に応じた課税により自動車利用の抑制を促し、CO2排出量の削減に貢献する制度として期待されています。この税制により、自動車の購入者は環境に優しい電気自動車・燃費の良い車を選びやすくなるでしょう。
利用者が環境性能の高い車両を選べば、結果として自動車からの環境負荷が軽減されます。また、自動車ではなく、公共交通機関を利用する人も増えるかもしれません。
ただし、環境負荷低減の効果を最大限に引き出すためには、適切な税率設定と既存の環境政策との連携が重要です。総合的な環境対策の一環として、他の施策と組み合わせた効果的な運用が求められます。
【走行距離課税のメリット.3】道路インフラ維持管理への貢献
走行距離課税は、道路インフラの維持管理に必要な財源の、安定的な確保が期待できる制度です。実際の道路利用量に応じて課税されるため、電気自動車の普及による燃料税収入の減少を補えます。
道路の利用状況に応じた公平な課税により、インフラの適切な維持管理が可能となるでしょう。地域別に課税率設定をすれば、各地域の道路事情に合わせた柔軟な財源配分も実現できる可能性があり、自動車税に代わる貴重な財源となるかもしれません。
また、走行距離に基づく課税システムは、道路の過剰利用を抑制し、インフラへの負荷を軽減する効果も期待できるでしょう。これにより、道路施設の長寿命化と維持管理コストの最適化が図れます。
走行距離課税導入のデメリットとは?
走行距離課税の導入には、プライバシー保護や高額なコストなど、複数の課題が指摘されています。特に、地方での負担増加を懸念する声が強まっており、導入には十分な検証が必要です。ここでは、走行距離課税のデメリットの詳細を見ていきましょう。
【走行距離課税のデメリット.1】プライバシー侵害の懸念
走行距離課税を実施する際は、車両の位置情報から個人の行動パターンが把握される可能性があり、データの取り扱いには細心の注意が必要です。
正確な課税のためには、詳細な走行データの収集は避けられません。しかし、完全な匿名化が困難なことから、情報漏えいやデータの悪用リスクが懸念されています。
政府・運営機関には個人情報の厳格な管理体制の構築が求められ、プライバシー保護法制の整備や情報セキュリティーの強化が重要となるでしょう。
また、システムの設計段階から透明性を確保したり、国民への説明責任を果たしたりなど、社会的な理解を深めていくことも必要です。
【走行距離課税のデメリット.2】地方の負担が増える可能性
走行距離課税の導入により、公共交通機関が限られる地方部では、自家用車への依存度の高さから税負担が増加する可能性があります。地方住民の生活実態として、通勤や買い物に長距離の移動を必要とする場合が多いためです。
こうした地域特有の事情を考慮し、地方に配慮した制度設計が求められます。例えば、地域の実情に応じた課税率の調整や、公共交通機関の整備との組み合わせなどが考えられるでしょう。
地方住民の理解を得ながら制度を円滑に導入するためには、地域の特性に合わせた柔軟な対応と、きめ細かな支援策の検討が不可欠です。
【走行距離課税のデメリット.3】導入・運用コストの問題
走行距離課税の導入には、全車両へのGPSなどの計測装置設置が必要となり、多額の初期投資が必要です。さらに、データの収集・管理システムの構築や維持には、継続的な費用が発生します。
これらのコスト負担の配分方法や、既存の税制からの移行期における一時的な税収減少への対応も、重要な検討事項です。
効率的な制度運用を実現するためには、費用対効果の慎重な分析と、技術革新を活用したコスト削減策の検討が欠かせません。また、段階的な導入により、初期投資の負担を分散させることも考えられます。
海外での走行距離課税の導入事例
走行距離課税の導入は、アメリカのオレゴン州やヨーロッパ諸国など、世界各国で進められています。これらの海外事例は、日本が走行距離課税を検討する上で貴重な参考となるでしょう。ここでは、主要な導入国の取り組みについて紹介します。
(参考:『令和5年度 高速道路調査会 研究発表会 諸外国におけるAETおよび走行距離課金の導入状況に関する調査研究(その2)|公益財団法人 高速道路調査会』)
アメリカ・オレゴン州の走行距離課税への取り組み
アメリカのオレゴン州では、2015年に「OReGO」という走行距離課税プログラムを導入し、車両に設置したマイレージレポートデバイスで距離を計測しています。
1マイル当たり1.8セントのマイレージ税を徴収することで、燃料税の減収に対応し、道路の維持管理費用を確保しているそうです。
電気自動車やハイブリッド車など、燃費性能の高い車両にも公平な課税が実現し、2018年にはホワイトハウスから革新的な施策として評価されました。ただし、プライバシー保護や自動車所有者への経済的負担が課題となっており、実施状況を慎重に見守る必要があります。
ヨーロッパ諸国(EU)の走行距離課税の導入状況
EUでは1993年の発足以降、域内の物流が自由化されました。これにより、輸送トラックの国境を超えた長距離移動が容易になりましたが、国によっては有料道路制度がなかったため、負担額に不公平が生じたそうです。
このような背景から道路インフラへの課金ルールを制定し、主に重量貨物車への課税を開始しており、現在ではEU加盟各国の走行距離課税導入が促進されています。2025年2月現在、EU加盟国での主な導入国は、以下の通りです。
・オーストリア
・ドイツ
・チェコ
・スロバキア
・ポーランド
・ハンガリー
・ベルギー
・ブルガリア
・スロベニア
日本における走行距離課税導入の展望
日本では走行距離課税の導入に向けて、政府による具体的な検討が始まっています。国民の意識調査や技術的課題の解決にも、徐々に進展が見られるでしょう。以下で、制度の実現に向けた展望と課題について詳しく解説します。
政府による走行距離課税の検討状況
日本政府は、2022年から走行距離課税の導入を本格的に検討し始めており、電気自動車の普及に伴うガソリン税収の減少への対応策として位置付けています。
総務省や国土交通省を中心に、技術的な課題や法整備の検討が進められていますが、2025年2月現在では具体的な導入時期や課税方法は未定です。
2025年度以降の導入を視野に入れつつ、公平で持続可能な自動車税制の実現に向けて、慎重な議論が続けられる見通しとなっています。
走行距離課税導入に向けた法整備と技術的課題
走行距離課税の導入には、GPSやオドメーターを活用した走行距離の正確な計測と、データ改ざん防止が重要となります。また、個人の移動情報を扱うため、厳格な情報管理体制の構築も必須です。
課税率設定や既存の自動車関連税との調整、国際的な整合性の確保など、課題は多岐にわたります。関係省庁や自動車業界、IT企業との連携のもと、社会的影響を考慮した段階的な導入の検討が必要です。
走行距離課税に対する国民意識調査結果と社会的受容性
JAF(日本自動車連盟)による自動車税制のアンケートでは、走行距離課税やモーター出力課税に関する項目が追加され、国民の理解度や受容性を測る指標となっています。
2024年の調査結果によると、走行距離課税やモーター出力課税の議論について知っていた人は、33.3%にとどまる結果となりました。
また、「これ以上、自動車ユーザーの負担が増えないようにすべき」を選択した人は72.5%、「電動車にも対応できる公平な税制度は必要である」を選択した人は28.5%となっています。
制度の透明性確保と丁寧な説明を通じて、社会的受容性を高める必要があるといえるでしょう。また、地方や運送業界からは負担増大への懸念も示されています。公平で持続可能な税制の実現に向け、多様な意見を踏まえた検討が必要です。
(参考:『2024年JAF『自動車税制に関するアンケート調査』結果|JAF(日本自動車連盟)』)
走行距離課税と既存の自動車関連税制との関係
走行距離課税は、自動車の利用実態に応じた新たな税制として、既存の自動車関連税制との調和を図りながら、具体的な移行計画が検討されています。最後に、現行の自動車関連税制との比較や統合・移行の可能性、ユーザーへの影響について考察していきましょう。
走行距離課税と現行の自動車関連税制の比較
現行の自動車関連税制では、自動車税種別割・自動車重量税が車両の所有に対して課税され、排気量や車両重量に基づいて税額が決定されています。
実際の走行距離にかかわらず同じ税額が課されることで、使用頻度の低い車両所有者に不公平感が生じているのが現状です。
一方、走行距離課税は実際の道路利用量に応じて課税されるため、より公平な負担が実現できます。また、低燃費車や電気自動車の普及による、税収減少への対応も期待されるでしょう。
走行距離課税と既存税制の統合・移行計画の可能性
走行距離課税の導入においては、現行の自動車税種別割・自動車重量税との調整が不可欠で、国民の理解を得るためにも段階的な廃止と置き換えが必要といえます。
また、燃料税と走行距離課税を組み合わせるハイブリッド方式を採用したなら、燃料効率の良い車両や電気自動車への公平な課税も可能となるかもしれません。
地方自治体の税収確保のため、走行距離課税の一部を地方税として配分する仕組みも重要です。二重課税を防ぐための調整措置を設け、納税者の混乱を最小限に抑えた円滑な移行を目指すことが不可欠といえます。
まとめ
走行距離課税は、自動車の走行距離に応じて課税する新たな制度です。環境への配慮や税収確保を目的に検討されていますが、2025年2月現在では導入は決定していません。
この制度には、公平性の向上や環境負荷の軽減というメリットがある一方、プライバシーの懸念や導入コストなどの課題も存在します。
海外での導入事例を参考に、日本でも既存の自動車関連税制との整合性を図りつつ、慎重に検討が進められているので、今後の動向にも注目しましょう。
▼ライタープロフィール
鈴木祐貴
車と音楽、旅と猫を愛するライター。多様なWebメディアの編集・ディレクション経験を重ね、2018年よりフリーランスとなる。
現在もさまざまなジャンルの編集をする傍ら、車関連のオウンドメディアや車の税金に関するコンテンツなどの編集経験を生かし、ライターとして車の魅力・おもしろさも発信中。
バックパックひとつでふらりと旅に出るのが好きだが、いずれはキャンピングカーで気ままに世界中をロードトリップしようと思っている。
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